北条氏政
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北条氏政編 
 

「………ほう。そなたがわが北条に寝返るという者か」
 目の前の人物に対して直江は不遜に答えた。
「寝返るとは人聞きの悪い。私はただ、上杉を見限ることにしたのですよ」
  
 直江は北条の屋敷にいた。
 鏡の中の高耶からのメッセージを受け取り、直江は箱根まで彼を探しに来た。そんな直江を待ち構えていた北条氏照により、直江は現在、北条屋敷に軟禁されていた。
 高耶の体は、命もたせの法で保護されていて、直江は高耶の肉体が弱っていく様を傍にいて、見続けていた。
 そんな中、直江はある決断を下した。
 その直江の決断は、直江を監視していた風魔の小太郎によって北条側に伝えられていた。
 小太郎に連れていかれたその部屋には、とある実業家風な人物が待ち構えていた。
 彼の元の名は北条氏政。景虎の兄であり、彼らの父である氏康が出てこない今、事実上の北条家の当主その人であった。
  「何が知りたいのですか?上杉の情報ですか。それとも…他の勢力の情報ですか。私の知っている限りのことならいくらでも…」
「直江殿。わしが知りたいのはただ一つ…」
「…もしや、あなたが400年前に見捨てた末の弟君のことですか?」
「そうではない。そんなことを聞いても意味がないだろう。今更だ」
 先日鏡ごしに見た末弟の姿を思い出し、氏政は目を細めた。
「では一体なにを……?」
「この北条という家はな、身内の結束が強いことで知られているようだが……それだけではない」
 氏政は静かに語りづづける。
「そなたは、北条の家臣になることを希望したという。それはまことか?」
「そうです。確かに申し出ましたが…」
「そのことに二言はないな」
「当然です。あの人のいなくなった上杉には用はない。むしろ、私はあの人を目の前から排除してくれた北条のために、役立ちたいのです。私の苦痛を取り除いてくれた、お礼にね」
「では、証をたててもらえるか」
 氏政の瞳が暗く光る。
「もちろん。私にできることでしたら。何をお望みですか? とりあえずその宿体に換生させて差し上げましょうか」
「そなた、そんなこともできるのか?」
「…あの人の後見人として謙信公から授かった力です。今となっては本来の目的に使うことは、ありませんから。これを利用しない手はないでしょう?」
 直江は自嘲気味に告げた。
「それは時期を見て、役立たせてもらおうか。それよりも…」
 ようやく本題を切り出す気になったのか、氏政はちらっと、小太郎に視線を移す。
 小太郎は一礼をして部屋から下がっていく。
「…詳しいことはそちらの部屋で。防音が整っているから、都合が良いのだ」
 氏政は隣の部屋へと直江を促した。
 よほど聞かれたくない話でもするつもりだろうか。護衛の小太郎を下げてまで、寝返ったばかりの人間にする話とは…。
 直江は氏政に招かれて室内に入った。
「この部屋は……?」
 部屋に入ると、そこは寝室のようだった。氏政の私室とは違うようだったが、十分な広さとベットがあった。
 ただ、この室内に入った瞬間に何か気配が変わった。その正体を見極めようとしている直江の元へ、氏政がおもむろにネクタイをゆるめ、ゆっくりと直江に近づいてきた。
「北条では、家臣との間の結束が固い。もちろんそれには理由があるのだよ…」
「氏政殿?…何を…」
 氏政は薄く笑いながら近づいてくる。
「…家臣の肉体も忠誠も…わしが握っているからだ」
 そういいながら、直江の顎を掴み、持ち上げる。
「いい眼をしている。わし好みのな…」
 直江が咄嗟に氏政の腕を掴み、離そうとする。
 だが、逆にその腕を掴まえられ、背後のベットに押し倒されてしまう。
「………痛ッ」
 腕の痛みに直江は顔をしかめる。
 そのまま、氏政がのしかかってきて、直江の四肢を封じようとする。
「抵抗しても無駄だ。この部屋は特殊な仕掛けが施してある。中からはドアは開かない」
 氏政の言っていることは本当だろう。厳重な結界まで敷かれているようだ。
 直江は悔しそうに、睨みつけた。
「その眼だ……。屈服してない、そなたの本音が良くわかる」
 氏政は直江のネクタイをゆっくりと緩めていく。
「これは儀式じゃ。そなたが、真に北条になるためのな……」
 Yシャツのボタンを外し、直江の滑らかな肌に触れていく。
 
 直江がその部屋から開放されたのは、それからしばらくてからのことであった。
 

 1999/8/20 作成
 
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