八海
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八海特別編 
「何だ……これは」
 直江が目が覚めると、部屋の中には昨日までなかったものが山積みになっていた。
 よく見ると、大小さまざまな包みで綺麗にラッピングされたものばかりで、それぞれにカードが添えられているようだ。
「これは、もしかして……」
 直江の記憶に間違いがなければ、これは昔よく異性からもらっていたはずの……。
 直江は、恐る恐る確認しようと近くの包みに手を伸ばした。
「おはようございます。直江様。もうお目覚めでしたか」
 カードを開こうとした時に、ちょうど八海が手に朝食を持ってやってきた。
「おはよう。いつもより遅いな」
 療養中の直江はまだ体の自由がきかない。寝床から自力で立ち上がることができず、食事は八海に運ばせていた。ようやく自分の手で食事ができるようになったばかりだ。
「申し訳ありません。ちょっと来客が多くて……。それよりもこれは一体……」
「朝起きたらこうなっていたんだ。てっきりお前の仕業だと思ったんだが」
 八海が部屋を見回してため息をついた。
「まったく……あれほど駄目だと言っておいたのに」
 その様子から直江は八海の仕業でないことを悟った。
「心あたりがあるのか」
「ええ……まぁ……」
 八海は言い濁して、すぐに片づけると言いだした。
その様子があまりにも不自然だったので、直江はつい追及したくなってしまった。
「誰の仕業なんだ。知っているんだろう」
「お気になさるほどのことではありませんよ。それよりも朝食が冷めてしまいます」
 不自然な話の逸らし方で余計に直江は気になった。
「とても気になるんだが…」
「朝食……また食べさせて欲しいのですか。私は一向に構いませんけど」
 その一言は直江がここまで回復するまでの悪夢のような出来事を思いださせた。
 あわてて、遠慮してとりあえず朝食を食べることに専念することにした。
「そんなに嫌がらなくても……」
 八海はかなり残念そうに呟いた。
 
 直江は食事をしながらも、荷物が気になっていた。
 八海がその側から次々と荷物を部屋の外へ運んでいく。
「気になりますか?」
 直江の視線に気がついた八海が問い掛ける。
「………別に…」
 そんな直江の様子を見てくすりと笑う。
「そうそう。今日は特別にデザートがあるんですよ」
 そう言って、八海は直江の目の前にワイングラスを差し出した。グラスの中身はワインではなく、小さな黒い塊のお菓子が数個入っている。
「どうぞ。大量に召し上がると体にまずいですが、直江様は甘いものがお好きですからね」
 直江は目の前に出されたチョコレートと八海を交互に見て、ため息をついた。
「いらん。もしかしなくても、さっきの箱の中身はこれだろう?」
 軽くうなづくと、八海はグラスの中の一つをつまんで持ち上げた。
「朝から私のもとへ、直江様のもとへこれを渡してくれと大勢の者から頼まれましてね…。どうやら誰かが間違った意味で伝えたらしく、主君に対して贈る物だという話が上杉中で出回っているらしいのです」
 それにしても、あの数は尋常じゃなかったはずだ。
「勝手に部屋まで運ばせた者が、かなりいたようですね。ほとんどの贈り主はご存知の方々でしょうけど」
 新上杉の総大将が療養している部屋へ荷物を届けることができる者など限られている。
 ここを管理している八海の目をかすめて、荷物を届けた者がいたということで、どうやら八海の機嫌が悪いようだ。口調から静かな怒りが感じられる。
「とにかく直江様が甘い物をお好みになられたのは私の責任ですしね。あの量を見せたまま、まったくお出ししないのでは申し訳ないですし…」
 そう言いながら、八海は直江に食べさせようと口元までチョコを運ぶ。
「いらないと言っているだろう!」
「好き嫌いをしていては…直るものも直りませんよ」
 お好きなくせに、と差し出す八海が憎たらしい。
「お前にやる」
「……え?」
「お前にやると言っているんだ。俺は疲れたからもう寝る」
 そう言い捨てて直江は再び横になった。気分を害されたという反抗心から、八海が視界に入らないように横を向いた。
「直江様……本当にいいんですか?」
 八海が直江に確認した。
「勝手にしろ」
「では…遠慮なく頂きます」
「……!?」
 言うなり覆いかぶさってきた八海に直江は驚いた。
「…………何をするっ!」
 もがく直江を容易に組み敷いた。体力と筋力が回復していない直江の体では押え込まれてしまっては、どうすることもできない。
「確認しましたよ、私は」
「意味が違うだろう!離れろっ……くっ」
 無駄と知りながらも抵抗を続ける。
「やはりコレの味も私が教えたほうがよろしいようですね。すぐに慣れますからね……」
「やめ……っ、離せっ……八…海……」
 
 その後、直江が教えられた味がどんなものだったのかは、八海だけが知っている…。
 
 1999/2/12 作成
 
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